未解決CASE #004有力

黒服の男たちは、どこから来たのか

回収案件

回収報告 No.004。

前号の通信で予告したとおり、今夜は珍しい案件です。都市伝説の「発生源」まで、記録をさかのぼって回収できる——そういう話は、めったにありません。

UFOを見てしまった人のもとに、黒いスーツの男たちが現れる。

サングラス。無表情。古風な黒い車。男たちは目撃者の家を正確に探し当て、静かにこう告げる。「あなたが見たものについて、誰にも話さないように」。

映画で世界中が知ることになった、あの黒服の男たち——メン・イン・ブラック。しかしあれはハリウッドの発明ではありません。映画より40年以上前から、米国のUFO業界には「本物のMIB」の噂が流れていました。

そして、この伝承には発生の記録が残っています。日付も、場所も、最初に「訪問」を受けた男の名前も。

男の名は、アルバート・K・ベンダー。

工場勤めのかたわら、1952年に「国際空飛ぶ円盤事務所(IFSB)」というUFO調査団体を立ち上げた人物です。会報を発行し、会員は国境を越えて広がり、団体は急成長していました。

ところが翌1953年。ベンダーは突然、団体を解散します。

彼が後に語ったところでは——円盤の背後にある「秘密」に到達した直後、黒い背広と帽子の3人の男が現れ、これ以上円盤について書くなと脅された、というのです。

会報の最終号で彼は、調査の中止を告げました。秘密が何であったかは、語らないまま。

UFO研究者たちは騒然となります。政府の介入か。それとも、人間ではない何かか。

このベンダーの沈黙に目をつけた男がいました。

グレイ・バーカー。IFSBに関わっていたライターで、後にUFO業界きっての出版人となる人物です。1956年、彼はベンダー事件を描いた一冊の本を世に出します。タイトルは——『彼らは空飛ぶ円盤について知りすぎた』。

知りすぎた者のもとに、黒服の3人組が来る。

この本が、伝承の鋳型になりました。さらに1962年にはベンダー本人が『空飛ぶ円盤と3人の男たち』を出版。ただし奇妙なことに、彼の語る訪問者は、当初の「政府の介入をほのめかす男たち」から、目が光る、壁を抜ける、超常的な存在へと——版を重ねるごとに変質していきました。

以後、北米を中心に「黒服の訪問」の報告が相次ぎます。1976年にはメイン州の医師が、UFO事例について調べた直後、「眉毛もまつ毛もない、口紅を塗ったような唇の男」の訪問を受けたと証言。男は目の前でコインを消してみせ、こう言ったとされます。「あなたの心臓も、こうなり得る」と。

報告には妙な共通点がありました。男たちのスーツは新品のように皺がなく、車は何十年も前の型なのに新車のように走り、そして彼らの日本語ならぬ英語は、どこか機械のようにぎこちなかった——。

黒服の男たちは、半世紀かけて世界中の闇に住み着きました。発端となった「秘密」をベンダーが本当に握っていたのかどうかは、誰にも分からないまま。

……回収案件の報告は、ここまで。ここからは、当局の解剖台で。


解剖記録

今夜の解剖は、都市伝説というものの内臓を見られる貴重な機会です。メスを入れる場所は、語り部・グレイ・バーカーの仕事場。

バーカーの死後、彼の周辺から決定的な証言と物証が出てきます。

まず1957年、ベンダーらUFO研究者のもとに「R・E・ストレイス」なる米国務省職員を名乗る人物からの書簡が届く事件がありました。後年、この「ストレイス書簡」はバーカーと仲間の研究者ジム・モーズリーが国務省の便箋を模して作った偽造文書だったことを、モーズリー本人が認めています。本物の政府の関与を「演出」してみせたわけです。

さらに1990年代末には、バーカーの協力者だったジョン・C・シャーウッドが、懐疑派団体の機関誌上で告白します。若き日の自分はバーカーに頼まれ、存在しない目撃談や団体の話をでっち上げて広めたことがある、と。バーカーの書簡類の研究からも、彼がUFO業界を真実の探求ではなく「売れる物語の市場」として扱っていた様子がうかがえます。

つまり、確定事項はこうです。MIB伝承を世界に売り出した張本人は、捏造の前科が複数立証されている演出家だった。

ベンダー自身が何を体験したのかは、今も不明です。ただし有力な見立てはあります。

ひとつ。1950年代の米国では、UFO目撃者のもとを本物の政府関係者——空軍の調査員や防諜担当者——が訪れることが実際にありました。冷戦下、空を飛ぶ未確認の何かは、宇宙人である前にまず「ソ連の何か」だったからです。スーツ姿の公務員の訪問という現実の種が、語り直されるうちに超常の衣をまとった、という筋書き。

これを裏づける公文書もあります。1967年、米空軍の高官が出した内部メモには、「空軍士官を騙る人物がUFO目撃者を訪れ、目撃内容を口外するなと告げている」事例への注意喚起が記されている。つまり空軍自身が、偽MIBの存在を真顔で警戒していたのです。騙っていたのが誰だったのかは——不明のまま。

ふたつ。民俗学者ピーター・ロイチェヴィッチは1980年代の論文で、MIB体験談の構造が、ヨーロッパに古くから伝わる「黒衣の悪魔の訪問」譚と酷似していることを指摘しました。黒い服、不自然な肌、ぎこちない動き、そして「知りすぎた者への警告」。黒服の男は、円盤時代の衣装を着た、ずっと古い何かなのかもしれません。

ここで民俗学の概念をひとつ。オステンション——人が、知っている伝説を現実の行動でなぞってしまう現象です。

MIB伝承が広まると、実際に黒服を着て目撃者宅を訪れる悪戯者や自称調査員が現れ、その訪問がまた新しい「本物の証言」になる。物語が現実を生み、現実が物語を補強する。1967年の空軍メモは、この循環が実際に回っていたことを示す物証と読めます。

種は明かしました。発生源は特定でき、最初の語り部の捏造癖まで立証されている。教科書に載せたいほど綺麗に解剖できた伝承です。

それでも、最後にひとつだけ書き残しておきます。ベンダーは2016年に亡くなるまで、半世紀以上沈黙を守りました。商売人のバーカーと違い、彼は伝承の上で稼ぎ続けることをせず、業界から完全に身を引いたまま生涯を終えています。

すべてが演出だったなら——彼は何から、あれほど長く降りていたのでしょう。

当局が回収するのは、いつもこの「残りの部分」です。


未回収案件

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案件J:空のMIB、黒いヘリコプター 1970年代の米国で、家畜の変死事件(キャトル・ミューティレーション)の周辺に「無標識の黒いヘリコプター」の目撃が多発し、FBIの捜査ファイルにも記録が残っている。黒服の男の「空版」として伝承化した案件。ファイルは現在公開されており、いずれ本編で回収予定。

案件K:ファルコン湖の焼き痕 1967年、カナダで「着陸した円盤に触れて格子状の火傷を負った」と訴えた男性の事件。王立カナダ騎馬警察と軍が実際に調査し、公的記録が残る数少ない物証型UFO事案。検証派と擁護派の評価が今も割れている。

案件L:面接に来た黒服 海外掲示板で断続的に投稿される「就職面接に行ったら面接官が全員MIBだった」系の体験談連作。語りの型が完成されており、創作(ネット怪談)としての評価が高い。当局はフィクション枠として観察を継続します。


UFO目撃都市伝説

参照した公開資料

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