回収案件
二人の科学者が、同じ報告書を読んで割れた — スターゲイト計画
回収報告 No.007。
前号の通信で予告したとおり、今夜は機密解除文書の棚から、もう一冊。
1995年、CIA本部に届いた一本の評価報告書。同じデータを読んだ二人の科学者の結論が、真っ二つに割れていた。
一人は「統計的に有意な効果がある」と書いた。もう一人は「証拠としては時期尚早」と書いた。
その上に乗っていたのは、17年以上にわたり米軍とCIAが本気で運用した、超能力部隊の全成果だった。
コードネーム——「スターゲイト」。
フォート・ミードの透視部隊
冷戦下、ソ連が超能力兵器の開発で先行しているという恐怖が、米国諜報機関の内部に広がっていた。1970年に出版された、東側諸国の超能力研究をまとめたある報告書が、その焦りに火をつけたと言われる。
1972年、カリフォルニア州のスタンフォード研究所(SRI)で、物理学者ハロルド・パットオフとラッセル・ターグが、CIAの資金提供を受けてある実験を始める。被験者は、ニューヨーク出身の芸術家インゴ・スワン。地図上の座標だけを渡すと、行ったこともない土地の風景を、紙の上に描き出してみせたという。
この能力には名前が与えられた。「リモート・ビューイング」——遠隔透視。
1977年、計画はメリーランド州フォート・ミードの陸軍部隊として実体を持つ。ゴンドラ・ウィッシュ、グリル・フレーム、センター・レーン、サン・ストリーク——コードネームを変えながら存続し、1991年にすべてが統合され、「スターゲイト」という一つの名前に落ち着いた。
八つの車輪のクレーン
部隊の中で、最も能力が高いとされた被験者の一人が、元警察署長のパット・プライスだった。
ある日、彼に渡されたのは緯度と経度の数字だけ。目的地がソ連領内であることも、何を見るべきかも告げられていない。
プライスは、巨大な施設の絵を描いた。そこには、八つの車輪を持つ奇妙な大型クレーンがあった。
後に分析官が衛星写真と照合したとき、その絵は——ソ連の核実験施設に実在する、特徴的な巨大クレーンの輪郭と、よく似ていた。
この一件は、計画の継続を後押しする「成功例」として、部隊の内部で長く語り継がれることになる。
被験者の一人ジョー・マクモニーグルは、後年、自身の任務に対して米陸軍から表彰を受けている。表彰の理由は、機密のまま記録された。
それから20年余り。最初に紹介した、あの割れた評価報告書が書かれる日が来る。
……回収案件の報告は、ここまで。ここから先は、当局の解剖台で。
「実在した」と「証明された」は、また違う
今夜の解剖台に乗るのは、少し奇妙な形をした事件です。多くの奇譚は「噂は本当か」を問います。スターゲイト計画は、そこから一歩先にいる。計画の実在も、被験者の存在も、評価報告書の内容も、すべて確定している。割れているのは、その先の解釈だけです。
確定していること
計画がCIAと国防情報局(DIA)の資金で、1970年代から1995年まで断続的に運用されたこと。総額は約2,000万ドルにのぼったと記録されていること。1995年、CIAが米国研究機関(AIR)に依頼した最終評価で、統計学者ジェシカ・アッツと心理学者レイ・ハイマンの二人が、それぞれ別の報告書を提出したこと。そして同年、計画への資金提供が打ち切られたこと——どれも公的な評価文書と機密解除資料に残る、争いのない事実です。2017年には関連文書を含む1300万ページがCIAによって公開されています。
有力なのは、ここまで
アッツの報告書は、被験者の正答率が偶然より5〜15%高いという統計的な偏りを指摘しました。これは「効果がゼロではない」という統計的な判断です。
ただし統計学には、見落とされやすい区別があります。統計的有意と効果の大きさは別物だ、という区別です。コインを100万回投げて小さな偏りを検出できたとしても、その偏りが「次に出る面を予言できる」ことを意味しないのと同じです。ハイマンの報告書は、まさにこの点を突きました。曖昧で的外れな膨大なデータの中から、数少ない一致だけが「まともな当て勘と、後からの意味づけ」で説明できてしまう、と。
不明、というより「決着していない」
ここで使う概念は、確証バイアス。当てはまった事例だけが記憶され、語り継がれ、外れた大量の事例は静かに忘れられていく心の癖です。プライスのクレーンの絵は、何百回という試行の中から、語るに足る一例として生き残りました。語られなかった側に何があったのかは、報告書の統計の中にしか残っていません。
アッツは現在、カリフォルニア大学アーバイン校の名誉教授として健在で、リモートビューイング研究の団体にも関わり続けています。ハイマンもオレゴン大学の名誉教授として、97歳の今なお存命です。資格を持つ二人の科学者が、同じ数字を前にして、評価当時の結論を撤回したという記録はありません。
これは、当局がよく扱う「未回収」とは少し違う形の不気味さです。普通、謎は情報の不足から生まれます。この計画は、情報がほぼすべて開示されているのに、解釈だけが今も閉じていない。当局はそう記録します。
未回収案件
今週、世界がざわついた小さな奇譚
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案件S:宇宙から送られたテレパシー 1971年、アポロ14号の飛行士エドガー・ミッチェルは、上司に無断で、月への往復の航海中に独自のESP実験を行ったと後年公表した。地球上の4人の協力者に向けて、特定の図形カードを念じて送ったという。本人の証言と記録ノートが現存する、実在の「宇宙×超能力」案件。いずれ本編で回収予定。
案件T:曲げられたスプーンの行方 1973年、超能力者を名乗るユリ・ゲラーがスターゲイト計画と同じSRIの実験室を訪れ、金属を曲げる実験が行われた。結果は科学誌『ネイチャー』に掲載されたが、奇術師ジェームズ・ランディが同じ現象をトリックで再現してみせ、論争は今も決着していない。本編の隣に立つ案件として記録します。
案件U:漏れた透視ログ 海外の掲示板で、「廃棄されたはずの遠隔透視セッションの記録が流出した」という体験談連作が拡散中。座標だけを渡された被験者が、見るべきでないものを見てしまう筋立てで、語りの完成度が高い。当局はフィクション枠として観察を継続します。


